平成二十一年度 菊舎顕彰俳句大会入賞作品 | |
10月18日 於) 田耕農林漁家婦人活動促進センター | |
兼題「菊」及び雑詠 | |||
県知事杯賞 | |||
天 | しんがりに菊の荷降す島渡船 | 下関市 | 坂本悦子 |
地 | 夏草の丈割って出る測量士 | 豊北町 | 平賀千代子 |
人 | パソコンが産ませたような金魚たち | 豊北町 | 小林勘信 |
五客 | 菊月や母ゐる暮しゆるやかに | 山口市 | 熊谷キミコ |
五客 | 菊日和杖の二人のおしゃれぶり | 山口市 | 佐伯明子 |
五客 | 書を閉じてこころの開くうろこ雲 | 山口市 | 田村 葉 |
五客 | 唯一途なるを帰燕と思ひけり | 山口市 | 名畑愛子 |
五客 | 牡蠣打つや媼は久女など知らず | 田布施 | 土井良治 |
佳作 | 白菊の百本あるは寂しかり | 山口市 | 伊藤愛子 |
佳作 | 蒼空のどこも乱さず菊焚けり | 下関市 | 今本波津代 |
佳作 | 鰯雲畦も体も弓なりに | 山口市 | 上田千鶴子 |
佳作 | 少年の負けた涙が日焼けする | 東京都 | 三木すみ子 |
佳作 | 章魚逃げる足八本を使ひ切り | 下関市 | 高田民子 |
一字庵賞 | |||
大人の部 | 菊月や母ゐる暮しゆるやかに | 山口市 | 熊谷キミコ |
学生の部 | あさごはんなすびのおしるたべないよ | 阿川小一年 | たむらしゅんた |
教育長賞 | |||
小学生の部 | おむすびもはちまきしてる運動会 | 粟野小三年 | うめ本あい |
中学生の部 | 靴底が炎天の地にへばりつく | 豊北中一年 | 荻 和弘 |
高校生の部 | 寒稽古得し黒帯をきつく締め | 豊北高二年 | 桂 朱音 |
NHK賞 | |||
大人の部 | 蝉の木に父の背があり少年期 | 下関市 | 福嶋 泉 |
学生の部 | まてがいのあなにしおいれとびだした | 田耕小一年 | 阿立啓吾 |
学生の部 | こぼれそうおまけがついたかき氷 | 阿川小三年 | 磯中憂乃 |
山口朝日放送賞 | |||
大人の部 | かなかなや買手のつかぬ杉の山 | 山口市 | 松本明女 |
学生の部 | 弟がセミといっしょにないている | 田耕小五年 | 河田野乃花 |
学生の部 | ばあちゃんと一緒にかざった盆ちょうちん | 室津小六年 | 藤永政樹 |
選者特選賞 | |||
中村石秋選 | 菊真白小町の切手貼りて来る | 防府市 | 伊藤仙女 |
中村石秋選 | 蝉の木に父の背があり少年期 | 下関市 | 福嶋 泉 |
河村正浩選 | 老班は消せぬままなり菊芽挿す | 豊北町 | 西嶋美津子 |
河村正浩選 | 章魚逃げる足八本を使ひ切り | 下関市 | 高田民子 |
岡 昌子選 | 菊月や母ゐる暮しゆるやかに | 山口市 | 熊谷キミコ |
岡 昌子選 | かなかなや買手のつかぬ杉の山 | 山口市 | 松本明女 |
山戸則江選 | 枯菊を焚いて島裏焦がしけり | 下関市 | 今本波津代 |
山戸則江選 | 少年の負けた涙が日焼けする | 東京都 | 三木すみ子 |
下関市長賞 (当日席題 「蟷螂・かまきり・いぼむしり」) | |||
天 | 田耕野の日を曳きずりて枯蟷螂 | 下関市 | 福嶋泉 |
地 | 枯蟷螂背負ひて媼帰りけり | 豊浦町 | 北本一夢 |
人 | 蟷螂も居て夢語る村おこし | 豊北町 | 和田幸子 |
五客 | 木偶であることの尊さいぼむしり | さいたま市 | 山戸則江 |
五客 | けふはけふの限りを跳びていぼむしり | 山口市 | 名畑愛子 |
五客 | いぼむしり空洞深き埴輪の眼 | 山口市 | 熊谷キミコ |
五客 | 蟷螂や田耕郡は米どころ | 下関市 | 森田泰子 |
五客 | 蟷螂や休日だけの畑仕事 | 光市 | 田村文代 |
佳作 | 蟷螂の斧振り上げしまま枯るる | 平生町 | 大塩妙子 |
佳作 | 斧構え枯蟷螂の見得を切る | 下関市 | 坂本悦子 |
佳作 | 枯れ蟷螂古武士のごとく構へたる | 豊浦町 | 益田耕雨 |
佳作 | 蟷螂の構えに留守を託しけり | 豊浦町 | 兒玉千畳 |
佳作 | 野に化して斧もてあますいぼむしり | 豊北町 | 恒冨靖子 |
「学生の部」への一字庵(岡昌子)講評 |
教育長賞の小学生うめ本さんの句、運動会の弁当を開いたときの一瞬のうれしい気持ちがよく表れています。海苔の巻きかたひとつに、母と子の愛情がしのばれる良い一句です。中学生荻君の句は、やけ付くような真夏の暑さが、靴の底を通して実感されます。「へばりつく」で舗装された地の温度の高さも想像できます。靴というものを通して炎天を詠みました。俳句は出来合いの言葉や理屈はいただけません。高校生の桂さんの「寒稽古」の句、柔道をしている作者は、有段者になった自覚をもって稽古に入ります。この句も「黒帯をきつく締め」という行動を通して、気持も引き締めている様子が見えきりっとした一句になりました。NHK賞の阿立くん、まてがい相手にきゃっきゃっと遊んでいます。また、磯中さんの句もほほえましく、ともに作者の姿が目に浮かんでくる一句です。山口朝日放送賞、河田さんの「セミ」の句、うるさいのですがちょっとせつなくなっている姉の気持ちでしょうか。藤永君の家は盆提灯をかざるのでしょうか。この仕事は父や母でなくおばあちゃんでしょう。教わりながら飾っている景が浮かびます。一字庵賞の田村君の句はことばをそのまま五・七・五にしたようですが、素直でかわいいですね。大人は好きななすびですが、彼は「たべないよ」と断言したのです。 入賞作品の俳句は、季語が動かない、ものが効いている、人まねでなく、作者の素直な思いが伝わってくるものばかりです。俳句は頭で作らず、感動が何より大切です。実作指導にあたっては、子ども自身が詩ごころをくみ上げる時間を待っていただき、大人の観念で誘導しないことです。個性を尊重して正直で手ざわりのある句を誉めてください。先生たちも平素から俳句に親しんでいただければ最上です。 |
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