よそ見 わき見 気まま旅

第28回  山形
 二口峠の沢
 山寺から仙台方面へは、国ざかいの二口峠を越えます。ところがこの峠、標高が1,000mを超えるのです。世の中が車社会に移行するのに伴い、車道として整備されたようですが、頂上付近の未舗装部分は未だに崩落することが多いらしく、二度、車での通行を試み、二度とも叶いませんでした。
 菊舎が歩いた頃は、人がやっと通れるほどの山道でした。峠越えの距離が凡そ五里、その頃の旅人にとっては造作の無い距離です。ところが、標高1,000mの峠が曲者でした。思うように歩行は進まず、頂上付近で陽が暮れ、菊舎は道を見失ってしまいました。
 二口渓谷自然歩道と書かれた案内板の脇には、熊がいます、の警告があります。熊が出ます、と書かれているのであれば、たまにそういう事もあるのかな、くらいに思うのですが、熊がいます、の文字は相当リアルです。今も藪の陰からこちらを窺っているような緊迫感があります。
 菊舎は、そんな山中を一晩中さ迷い歩きました。もう少し宮城に寄った辺りで日暮れたのであれば、間違いなく沢に遭遇していました。沢伝いに下れば、必ず人里に辿り着いたはずなのに、漆黒の闇の中で大変な恐怖と闘ったのでしょう。
 この沢、渓流ファンにとっては垂涎の、良型のイワナが潜んでいます。たまたま出合った釣り人のビクは、かなり重そうでした。
 (中村 佑)    2015年12月2日



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