よそ見 わき見 気まま旅

第28回  尾花沢
尾花沢
 山刀伐峠


 悪い癖でついつい寄り道をしたくなります。菊舎は歩いていませんが、芭蕉が封人の家(山形県最上町境田)に一夜の宿りをした後、屈強の若者を頼んでやっとの思いで越えた山刀伐峠がどんな所なのか見てみたくなりました。
高山森々として一鳥声きかず、木の下闇茂りあひて夜行くがごとし。雲端につちふる心地して…」と書き残しています。
 芭蕉が長逗留をした鈴木清風の居宅がある尾花沢の町外れ、県道28号線を進んだ山中に、まるで小腸のくねりを思わせる難所が残っています。大切な観光資源として一度は整備されたようですが、歩く人も滅多に居ないらしく、随分荒れてしまった印象でした。
 ところで、芭蕉が心を許し長逗留をした鈴木清風という人は、中々豪胆な人物だったようです。紅花を商うため、その年も北前船を仕立て江戸に入りました。ところが江戸の商人達の悪企みにより極端な安値を提示されます。すると「私の紅花は必要がないようです」と紅花の詰まった俵を川原に積み上げ火を放ってしまいました。
 慌てたのは江戸の商人達です。たちまち品薄になってしまったため相場は一気に倍以上に高騰してしまいました。そこで清風、おもむろに灰にした筈の紅花を市場に投入、大儲けをしました。
実は、灰にしたと思われた紅花は、俵に詰めたカンナ屑だったのです。普段の年の倍以上の利益を得た清風、「余分な儲けは江戸に返さなくてはならない」と一ヵ月かけて江戸で大散財をし、例年通りの儲けを懐に尾花沢に帰ったそうです。
 (中村 佑)    2015年11月1日



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