よそ見 わき見 気まま旅

第11回  那谷寺(なたでら)

山中温泉から千代女が住む町、松任に向かう途中に有る真言宗の名刹です。芭蕉はここで「石山の石より白し秋の風」と詠みました。
 石山とは、大津の石山寺のことです。硅灰石の岩盤の上に建つ石山寺の、その石よりも白々と秋風が吹く侘しさ、蕭々たる景色を僅か17音に切り取りました。

奇石さまざまに、古松植えならべて、萱ぶきの小堂、岩の上に造りかけて・・」と芭蕉が書き残しているように、天然の造形美と言うべきか異形美と言うべきか、作意を以ってはとても太刀打ち出来ない見事な自然の彫刻が、岩肌に、岩壁に多様な形状に穿たれています。

岩壁に生じた神仙窟は母親の胎内とみなされ、観音像を安置し、胎内くぐりの聖地です。くぐれば罪を清め、生まれ変わることが出来るのです。

団体客が通り過ぎる道から少し外れると、苔降る老いた樹々が、ひっそりと静謐の空間を作りだしています。恐らく菊車は、句を詠むことさえ忘れて、広い境内の何処かに腰をおろしたまま、流れてゆく時の中にたゆとうていたことでしょう。

 (中村 佑)    2014年7月1日



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