よそ見 わき見 気まま旅

第10回  山中温泉
 

 湧き出たゆけむりが通りにまで溢れています。『葺添る軒のあやめや温泉の匂ひ』と菊舎は詠みましたが、硫黄の強烈な匂いではありません。きわめておだやかなな湯の香りです。
この日は生憎の空模様で人影はまばらでした。普段は若い人の姿が目立ちます。写真の右手を奥に進んで行くと、雰囲気の有る店が軒を連ね、お洒落な酒屋や行列の出来るコロッケ屋、アンティークなレストラン、奥行きを感じる和風の宿などが並んでいます。家並の奥の山際は、鶴仙峡と呼ばれる景勝地です。総檜造りのこおろぎ橋を渡って景観を楽しみます。
昔々は北前船の船頭や乗組員で大いに賑わい、以後も歓楽温泉として存在感の有る温泉街だったそうです。どうやら最近は団体客よりも若いファンの方が多いらしく、日暮れた通りに酔客を見ることは殆どありません。その所為か、日没とともに閉店する店も多く、温泉街にしては少しばかり意外な感じがしなくもありません。
翌朝早く、道路脇に設置された融雪用散水装置のテストが行われていました。雪の季節が近いのでしょう。さすがに山の中の「山中温泉」です。
 (中村 佑)    2014年6月1日



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